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ヘブル人への手紙11章16節

魔法使いのくりもとちゃん

はじめに

異世界を車で旅する旅人系ライトノベルです。

へブル人への手紙11章16節

雨の国

ぼろいフランス車の2気筒エンジンをうならせながら、小麦畑のわき道を進んでいた。車体のトランクハッチに縛り付けた旅行カバンが重いためか、車両は後ろのめった状態で走行している。助手席にはツインテールの少女、ドリルが座っている。
ときおり近くの酪農家の車両とすれ違う。道は狭いのでけっこう端まで寄せないと通れない。袖には小川が流れている。

ラジオからは天気予報が流れていた。

ラジオの声:「午後3時を回りました。道路交通情報をお伝えいたします。シューエルタル地方はこれより雨期に入り、雷雨が予想されます。川沿いの方は洪水に注意してください。」

ドリル:「この先、雨が続きそうね。」
くりもと:「そうみたいだね。」

†††

だんだんと空模様が暗くなり、シュラル国シューエルタル地方が見えてきた。

雨期の国として知られ、くりもとはロードマップを取り出し、国の情報をドリルに教える。

ドリル:「なんでも、格差の多い厳しい国って書いてあるわ。」

雨が多いために農作物が育たず、外部からの輸入が必要な国。治安も悪化しているとのこと。

ぽつぽつと雨が降り始める中、くりもとが提案する。

「この国スキップして次の町まで行ったほうがいいんじゃない?」 ドリル:「駄目よ。先約済みの顧客もいるし。」

その時、屋根から雨水が滴り始めた。

ドリル:「くりもと、雨漏りしてるわよ。」
くりもと:「まずいね…雨脚も強くなってきてるし。」
ドリル:「その辺で野宿するか、民宿でも探しましょ。」

雨漏りを気にしながら、くりもとは適切な場所を探すために走行する。

†††

検問所前で車を止め、パスポートを提示すると、門兵がアップタウンへのアドバイスをくれた。

門兵:「この先は首都に続く町だ。車なら30分ぐらい走り抜ければアップタウンにたどり着くだろう。だが、雨漏りもひどいな。宿屋ならこの近辺で宿泊して、ささっと町まで向かうのだぞ。途中物乞いをする貧民層が多くうろついているからな。よい旅を。」

くりもと:「やっぱり治安悪いんだ…」

車の中で合羽を着こむドリル。

ドリル:「ええ、今日宿泊するのは諦めて、早くアップタウンまで走り抜けたほうがいいわね。」

雨漏りを我慢しながら、車を走らせ続けた。

城下町に続く森

ぬかるみ道を注意深く進むくりもととドリル。
暗闇の森に突入すると、ドリルがくりもとに尋ねます。

ドリル:「くりもと、門兵はダウンタウンを抜けた先は城下町って言ってたわよね。森って、想定内かしら?」
くりもと:「うーん…どうなんだろう…もしかして下の道から来ちゃったのかな…」

城や町の明かりがかすかに見え始めるものの、至近距離に町がある気配はない。

ドリル:「ちょっと心配ね…引き返したほうがいいんじゃないかしら?」

くりもと:「うーん…そうしようか、ちょっと道が広いところで切り返s…ん?ああっと!」

突然、急ブレーキ音が鳴り響く。

目の前には赤い頭巾の幼女がぬかるみ道にひれ伏していたが、こちらに気づき、むくりと立ち上がった。

体勢を立て直すドリルはくりもとに向かっていった。

ドリル:「ちょ!危ないわよ…って…少女?かしら」

車のライトをロービームに切り替え、サイドブレーキをかける。

くりもと:「前見て…女の子がいる。」

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助手席のドリルは驚いた顔で助けないとと車から飛び出し、少女のもとへ駆け寄った。

ドリル:「だ、だいじょうぶ?」

少女は童話の赤ずきんちゃんを彷彿とさせるような姿だった。だが、地面にこけてしまったのか泥で汚れており、周りにはかごやリンゴ、果物が散乱している。

赤ずきんの少女:「ご…ごめんなさい…」

くりもとも傘を差して後を追ってきました。

ドリル:「あなた、どうしたの?お父さんとか、お母さんからはぐれちゃったの?」

ドリルは少女の体を支えるようにしてあげると…こちらを向いた。 顔には血が垂れている。

ドリル:「ちょっと!大怪我じゃない!くりもと、救急箱とって!」

しかし、その時、森の中から不気味な音が聞こえてきます。笛の音や葉っぱのささめきが漂い、くりもとが気づきます。

くりもと:「ねえ、匂う…」
ドリル:「どうしたの?くりもと」
くりもと:「周り、囲まれてる…獣だ!」

周囲の茂みから狼たちが姿を現す。

赤ずきんの少女:「あなた…くりもとっていうんだ…じゃあ、おいしく…いただこうかしら…」

くりもととドリルは驚きと恐怖で言葉を失います。しかし、突然、斬撃が少女に命中します。倒れた少女の姿からは死の恐怖が滲み出ています。

ドリル:「!!!」 くりもと:「まずい!罠だ!」

しかし、その瞬間、斬撃が赤ずきんの首元に入りました。

崩れ落ちる赤ずきん。 体は痙攣しているものの、まだ生きており、致命傷を受けたからというよりは別の意味で死んだ魚の目になっており、負け確の恐怖におびえた表情だ。

「逃げて!」 謎の声が聞こえた。

目の前には着古したメイド服の少女が、手にした猟銃を構えて立っていました。その瞬間、猟銃が轟音とともに火花を散らし、目の前に迫る狼たちを容赦なくなぎ倒していきます。

リロード音が森に響き、その金属音は冷たい夜空に重なります。エマは優れた腕前で、玉切れしても瞬時にマガジンクリップを詰め込み、連続して襲い来る狼たちを手早く処理していくのです。その動作はまさに芸術のようで、銃弾の軌道やリロードのスピードはまるで彼女が武器と一体化しているかのようでした。

狼たちはエマの前に立ちはだかるものの、その圧倒的な射撃技術の前に無残に散りゆくばかりです。玉切れの瞬間、エマは巧みな手つきで新しい弾倉を装填し、再び狼たちに向かって射撃を開始します。その一瞬一瞬が、闘志に満ちたエマの姿を浮かび上がらせていました。

くりもととドリルは車の中で驚きと安堵の表情を浮かべ、エマの勇姿に見とれていました。彼女の冷静な銃さばきはまるで戦場のプロフェッショナルそのものであり、その中にはどこか悲壮感も漂っていた。

狼の群れはエマの抵抗に遭って次第に散り散りになりつつも、茂みからは絶え間なく増援の獣の姿が見え隠れ。

くりもとは急いで車に飛び乗ります。 車をメイド服の少女のもとに寄せ、くりもとが、後部座席の扉を開け、手招きする。

くりもと:「さあ、乗って!」

ドリルとメイド服の少女を車に乗せたら、全速力で車を走らせました。 途中何度か狼が茂みから追撃してきましたが、車の速力では追いつけないようで、何とか振り切ったことがわかります。

車が去り、真っ暗になった現場では狼少女の悲鳴と体がむさぼられていく音が響き渡っていました…

狼少女「ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…」
(人間釣りに失敗した狼族はこのあと公開処刑にされ、同族にむさぼられお亡くなりになるというのがセオリーらしい…)

メイド服の少女

ぐっじょり濡れたメイド服の少女は無表情な顔つきで前を見ている。
前髪から垂れる水滴。   ドリルは問いかける。

ドリル:「助けてくれて、ありがとうね。」
メイド:「いえ、私たちの役目ですら。さっきの魔物は狼で、通行人の前にああやって、少女や老人などの姿をした化け物を道に立たせるんです。通行人はさっきの流れで助けようとして喰われてしまうのです。」

くりもと:「うーん。襲うなら襲うで、もうちょっと親切な方法でやってくれないのかねぇ…」
ドリル:「襲うっていう行為でアウトでしょうが…」

ドリル:「ごめんね…私たち旅人なの。あなたは猟師?」
メイド:「はい…本当は祖父の経営している墓地の墓守です。周りで狼の出没が多発するようになって副業的に猟師もやってます。」

くりもと:「さっきの狙撃の腕といい、命中だったね。相当銃の扱いにも手馴れてるんじゃない?」

メイド:「まぁ私として腕があるかなんて気にしたことはないのですが、まぁ日常的に猟を行う生活ですから…自然と得た力というべきでしょうか…」

ドリル:「でもほんと助かったわ。あなた、家はどちらに?」
メイド:「この先10分ほどに墓地があって、そこに家があります。」

ドリル:「くりもと、送ってあげましょうよ」
くりもと:「そうだね。雨漏りひどいけどちょっと我慢してね。」

メイドの自宅まで向かった。

城下町が見える丘の上まで登ると、沼地が広がり、その先に墓地があった。

墓守の家

墓守の少女は道を案内し、墓守の小屋までたどり着いた。 小屋の横にある屋根付きの馬小屋に車を停め、くりもとたち小屋にお邪魔した。

小屋の中は暖炉の灯がともっており、暖か。 薪をくべている一人の老人がいた。

くりもと:「失礼しまー…ぶぇくしょん!」
ドリル:「他人宅にお邪魔しといて盛大なくしゃみとは…すみません。先ほど、山道で狼に襲われていたところをこの型に救っていただいて…」

老人:「なぁに。気にしなくてもいいですよ。さぁ座って座って…ってずいぶんずぶぬれですねぇ…リュアット。この子たちを風呂に入れてあげなさい。」

リュアット:「ええ、おじい様。さきほど、家裏で薪をくべてきましたわ。あなた、くりもとっていうのね?」
くりもと:「ああ、自己紹介がまだだったね。私は魔法使いのくりもと。」

くりもとは鼻水を垂らしながらも会釈する。 その横でポケットティッシュを手渡すドリル。

ドリル:「ワタクシはアデル・マリーアントワネット・ドリルールですわ」
くりもと:「この子、名前が長いから「ドリル」でいいよ」
ドリル:「ちょっと!わたくしが認めてない名前を勝手に普及促進しないでいただきたいのですが…まったく…」

そんな二人のやり取りからもにぎやかな室内になる。

おまけ

登場人物

  • くりもと
    ハクビシン獣人の魔法使い。ドジで間抜けだが鼻は効く方。
    「まぁいろいろあるけど、楽しい旅して、真実をつかみたいからさ…」

  • ドリル
    金髪ツインテールが特徴的で周りからドリルというあだ名をつけられている。
    「コホン、私においしい紅茶をだしてくれないかしら…」

  • 狼少女
    シューエルタル地方で生息する狼族の少女。赤ずきんが特徴的。
    部族で暮らしており、人間狩りの囮となったが、作戦は失敗。狼の群れによって公開処刑された。「おなか一杯たべたいんだ!でないと…私がみんなの食材になっちゃう…」

  • 墓守のメイド
    シュラル国ダウンタウンの沼地で暮らす少女。ヨレヨレになったメイド服と無表情な顔つき、M1ガーランドで猟をしたり、通行人を救助して過ごしている。
    「私はただ、運命にのっとって過ごしているだけです…」

登場する道具

  • くりもとちゃんの車
    Citroën2cv6のチャールストン。日本のとある場所で保管されていた車体がなぜか異世界の空き家で転がっていた。(ナンバープレートや車検証のステッカーがその時代を物語っている)どこかからか転生してきたハクビシン獣人のくりもとがそのまま持ち主不在の状態だった車を旅の足として利用するようになった。雨漏りとエンジンのかかりが非常に悪い。

ログライン

様々な国を旅するくりもととドリル。今回立ち寄った国は格差社会の厳しいシュラル国への旅でした。道中で出会う墓守の少女と短期間生活を共にし、彼女の過去、近辺で広がる狼族の真実について知ることになります。

起承転結

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