魔法使いのくりもとちゃん03

魔法使いのくりもとちゃん03

子供たちの理想郷と崩壊する村

プロローグ

くりもとちゃんとドリルは、魔法の力を使いながら旅を続ける魔女とその相棒である。世界各地を訪れ、その地に息づく人々や文化に触れることで、二人はこの広い世界をより深く知ろうとしていた。ある日、彼女たちは「子供たちが異世界に迷い込んで戻らない」という噂を耳にする。すでにその村は、長きにわたる捜索で疲れ切り、大人たちが絶望の中で子供の帰りを待ち続けているという。

二人はその村を訪れることにした。緑豊かな山々に囲まれた小さな村には、緊張と絶望が充満していた。探偵事務所や警察の詰め所には、数多くの保護者が詰めかけ、泣きながら捜索の進展を問いただしている。村全体が深い沈黙の中に囚われ、まるで未来が閉ざされたかのようだった。

第一部: 村での出会いと捜索活動

村に着いたくりもとちゃんとドリルは、探偵事務所で村のシスターと出会う。彼女もまた行方不明になった子供たちを案じており、自分の子供もその異世界で失われたのだという。シスターの顔には深い疲れと絶望が浮かび、話す声にも生気が感じられない。「この村はもう崩壊する運命なのよ…運命には抗えない」と、諦めに満ちた言葉が彼女の口からこぼれる。

くりもととドリルは、異世界への手がかりを探しつつ、村に泊まることにする。夜更けの村は静かで、遠くから聞こえる保護者たちのすすり泣きが二人の心に重くのしかかる。子供たちを救うため、何としても異世界に足を踏み入れなければならないと決意を新たにする。

第二部: 異世界の理想郷と時の流れ

くりもとちゃんはついに異世界への入り口を見つけ、ドリルと共にそこに踏み入れる。目の前に広がるのは、現実の束縛から解き放たれた子供たちが築いた「理想郷」だった。異世界では、時間が緩やかに流れ、まるで永遠の楽園のように感じられる。子供たちは純粋で無邪気な顔を浮かべ、自由気ままに遊んでいたが、そこには冷ややかな反発の目もあった。

くりもとちゃんは子供たちに現実へ戻るように説得を試みるが、「もう大人の支配には戻りたくない」という拒絶の声が返ってくる。彼らにとってこの異世界は自由そのものであり、現実への帰還など考えたくもないのだ。くりもとちゃんは一旦現実に戻ることにし、再び交渉を続けることを決意する。

しかし異世界では、現実とは異なり時間が急速に進んでいた。くりもとちゃんが再び異世界に行き、交渉を試みる度に現実の村の時は流れ、少しずつその風景が変わっていく。

第三部: 異世界に囚われた魔法使いの娘

何度目かの異世界での訪問中、くりもとちゃんとドリルは一人の若い魔法使いの娘に出会う。彼女もまた、異世界に迷い込み、子供たちに支配される生活を余儀なくされていた。奪われた魔法の杖や書物は、子供たちにとってのおもちゃとなり、無力化されていた。「戻りたいけれど、もう戻る術がないの」と彼女は語る。擦り切れた服に身を包み、絶望の目で子供たちの世話を続けるその姿は、かつての自信と誇りを失った悲しいものであった。

くりもとちゃんは彼女を助けようとするが、異世界に閉じ込められた彼女には逃げ道がない。異世界の理想郷でありながら、その支配に従うしかない魔法使いの娘の姿が、くりもとちゃんの心に暗い影を落とす。異世界での交渉は一向に進展せず、子供たちはますます頑なになっていった。

第四部: 崩壊する現実の村

異世界と現実を行き来し続ける中、くりもとちゃんが現実に戻る度に、村の様子が変わっていくことに気づく。異世界では数日しか経っていない感覚でも、現実ではすでに数か月、そしてついには1年以上が経過していた。探偵事務所や捜索本部には次第に人影がなくなり、かつて子供たちを待っていた保護者たちも姿を消していった。

最後に異世界から戻った日、くりもとちゃんが目にしたのは、廃墟と化した村の姿だった。捜索本部は解散され、探偵事務所も朽ち果てていた。子供たちの捜索は時効を迎え、全てが終わってしまったのだ。かつて希望を持ち、必死に待ち続けた保護者たちも、絶望に押しつぶされて去ってしまった。

第五部: シスターとの別れと異様な誘い

荒れ果てた村の中で、唯一残っていたのはシスターだった。彼女は虚ろな目で微笑みを浮かべ、くりもとちゃんとドリルに声をかける。「ねえ、あなたたちもこの村で幸せに暮らしましょうよ…魔女の名声だけで、崇めてくれる人たちがいるのよ」と、まるで皮肉を込めたような言葉で誘うその姿には、どこか不気味なものが漂っていた。

その姿に危険を感じた二人は、深夜のうちに村を去ることを決意する。もはや救うべき人もいない村は、彼らに暗い影を落としながら静かに佇んでいた。

エピローグ: 廃墟となった村を後に

くりもとちゃんとドリルは、車に乗り込み村を後にした。かつての美しい村は廃墟と化し、子供たちも戻らないまま、二人の記憶に重くのしかかった。後ろに遠ざかっていく村の風景は、彼らに無力感を残し、深い悲しみを伴うものであった。誰も救えなかったという現実が、くりもとちゃんとドリルの心に暗い影を落としながら、旅は再び続いていく。

彼らが去った後、村やシスター、そして異世界に囚われた者たちの運命は、もう誰にも知られることはなかった。ただ、冷たく静かな夜の中で、すべては風化し、消え去っていくだけだった。