ガタガタガタ…
古い車を走らせるくりもとちゃん。
助手席にはツインドリルのドリルちゃんが医学書をめくっています。
ドリル:「ねえ、次の立ち寄る国はどこかしら」
くりもと:「魔女協会の所属更新手続きがあるからイリュム諸国が次の目的地だよ」
くりもとは魔法使い、魔女である。
青と緑を足したような色合いのとんがり帽子をかぶり、同色のローブを羽織っている。
腰にはポケット付きのかわいい前垂れエプロン。
魔法使いも絵本に出てくるような楽しいものというよりは案外現実時見ていて、
めんどくさい所属更新手続き、いわゆる免許書更新のような手続きがついて回る。
これには魔法スキルの利用手続きをはじめ、魔法使いの箒の乗車免許更新など
やることはもりだくさん。対応する国も結構都会のような国じゃないと
受け付けてくれない。なので、今回の旅先はその手続きが受けられる国が目的地というわけなのです。
ですが、一つ難点が。
イリュム諸国に向かうためには
エデン共和国というへその緒になったような細い大陸を経由しなければなりません。
国の情勢も不安定とのことは薄々聞いているのですが…
まずは情報収集がてらに道中の集落、ガソリンスタンドによってみることにしました。
個人経営でやってそうな寂れたガソリンスタンド。
給油を終えたらサービスステーションの室内に入り
店員さんを呼んでみます。
くりもと:「すみませーん。どなたかいませんかー?」
声をかけてみます。
くりもと:「この先の国についてお尋ねしたいのですが」
ガソリンスタンドの店員はすぐには現れませんでした。
くりもとちゃんとドリルちゃんは少し不安げに店内を見回します。
すると、奥から中年の男性が現れました。彼の目には疲れが滲んでおり、
まるで何か重いものを背負っているようでした。
店員:「ああ、すみませんね。何かお探しですか?」
くりもと:「はい、次の目的地に向かうために少し情報を集めたくて。
エデン共和国を経由しないといけないんですけど、何か注意点とかありますか?」
店員は一瞬顔を曇らせましたが、すぐに笑顔を作りました。
店員:「エデン共和国ですか…。今、あの国はかなり危険な状態です。
核抑止の問題で冷戦状態に陥っているんですよ。地上の国、ヘブンリーステートと地下の国、
ダークネスレルムが対立していて、道中も安全とは言えません。」
ドリル:「その話、具体的にはどういう状況なのかしら?」
店員:「地上の国は一見まともに見えるけど、電力供給のほとんどを地下の国から依存しています。地下の国は、原発を運用しているんだけど、実はその地下にはさらに深い地底の国があって、そこの先住民たちは奴隷のように使われています。最近は放射能汚染も深刻で、生存者も少ないとか。」
くりもと:「そんな…私たち、ただの旅人なんです。争いに巻き込まれたくないし、できれば避けたいんですけど。」
店員は肩をすくめました。
店員:「それなら、できるだけ目立たないように通り抜けるしかないですね。特に、地下の国の高官たちは外部の人間に対して胡散臭く接してくることが多いので、注意してください。」
くりもととドリルは顔を見合わせ、決意を固めました。
くりもと:「分かりました。ありがとうございます。私たち、気をつけて通ります。」
店員:「気をつけてな。無事に目的地にたどり着けるといいですね。」
くりもととドリルはガソリンスタンドを後にし、エデン共和国へと向かいました。彼女たちが直面することになる試練は、まだこの時点では予想もつかないものでした。
時間を割いてもらったお礼としてサービスステーションの自販機で缶ジュースを2本購入し、車に戻りエンジンをかけます。
車のキーをひねっても素直にはエンジンはかかってくれないので1分ほどセルモーターを回し続けてようやく始動。
ドリル:「もう車買い替えたほうがいいんじゃないかしら?セルモーターもそのうち故障しますわよこんなのじゃ…」
くりもと:「うーん。今どきの車ってもう電気自動車しか売ってないし…スーパーの買い出しとかならいいにせよ、私たち旅人だよ。ガソリン駆動は必須だし、魔動力で動かす際にも力はこめやすいからこの車が一番都合がよかったんだけどねぇ…」
ガタガタとバイクのような音を鳴らしながら、荒涼とした道を進みます。
風景は徐々に変わり、道の両側には乾燥した大地が広がっています。空は曇りがちで、まるでこの地域全体が暗雲に包まれているかのようです。
やがて、遠くに小さな集落が見えてきました。エデン共和国の入り口に位置するこの集落は、彼女たちにとって最初のチェックポイントとなります。
くりもと:「あそこに寄ってみようか。情報を集めるには良さそうな場所だし、ちょっと休憩もしたい。」
ドリル:「そうね。少し歩き回ってみましょう。」
彼女たちは車を集落の入口に停め、小さなマーケットやカフェが並ぶ通りを歩き始めました。人々の表情はどこか緊張感に満ちており、戦争の影が色濃く感じられます。
くりもと:「こんにちは。ちょっとお話を伺いたいんですが、エデン共和国の情勢について教えていただけませんか?」
カフェの店主は一瞬躊躇しましたが、やがて口を開きました。
店主:「あなたたち、外から来たんですね。今、この国は非常に危険な状態です。地上の国と地下の国が対立していて、どちらも核兵器を持っているんです。私たちは毎日怯えて暮らしています。」
ドリル:「それは大変ですね…。私たちはただ通り抜けたいだけなんです。安全なルートはありますか?」
店主:「安全なルートなんてないんです。どこに行っても危険は付きまといます。でも、もしどうしても通り抜けるなら、地上の国の主要道路を使ったほうがまだマシです。地下の国は何が起こるかわかりませんから。」
くりもと:「ありがとうございます。気をつけて進むようにします。」
店主は深いため息をつき、彼女たちを見送りました。くりもととドリルは再び車に戻り、エデン共和国の内部へと進んでいきます。
ガタガタと揺れながら車は進み、エデン共和国の内陸部へと向かっていきます。道中、くりもとちゃんはハンドルをしっかり握りしめ、ドリルちゃんは車窓からの風景を見つめていました。
くりもと:「ドリル、あの店主の言ってたこと、気になるよね。地上と地下の国の対立なんて、聞いただけでも恐ろしい。」
ドリル:「ええ、確かに。でも、私たちが注意を払って進めば、きっと無事に通り抜けられるわ。」
くりもと:「うん、そうだね。魔法を使うときも気をつけないと。目立たないようにしないといけないし。」
車は徐々にエデン共和国の中心地へと近づきます。次第に、道の両側にはバリケードや兵士の姿が見られるようになりました。兵士たちは厳しい表情で彼女たちの車を見つめています。
くりもと:「あの、ドリル…何か嫌な予感がする。」
ドリル:「うん、私も感じるわ。でも、ここを通らないと目的地にはたどり着けない。心を強く持って。」
やがて、車は大きな検問所に差し掛かりました。兵士たちが手を挙げて車を止めるよう指示します。くりもとは深呼吸をして車を止めました。
兵士:「あなたたちはどこへ行くんですか?この先は立ち入り禁止区域です。」
くりもと:「私たちはただ通り抜けたいだけです。エデン共和国を経由してイリュム諸国に向かっています。」
兵士は一瞬考え込んだ後、何かを無線で伝え始めました。しばらくして、上官らしき人物が現れ、くりもととドリルに近づいてきました。
上官:「あなたたちは魔法使いと見受けられるが、この国での魔法の使用は禁止されています。特に、地上と地下の対立が激化している今、外部の魔法使いには特別な許可が必要です。」
くりもと:「それは知らなかったんです。私たちは争いに巻き込まれたくないだけです。」
上官:「分かりました。しかし、安全に通り抜けるためには、私たちの指示に従ってもらわなければなりません。こちらに来てください。」
くりもととドリルは上官の指示に従い、車を降りて検問所の中へと案内されました。そこで、彼女たちは詳細な質問を受け、通行許可証を取得するための手続きを行うことになりました。
上官:「手続きが終わるまで、しばらくここで待機していてください。安全に通行できるルートを確保します。」
くりもととドリルは緊張しながらも、無事に通行許可が下りることを祈りつつ、検問所の待機所で時間を過ごしました。彼女たちの旅はまだ続きますが、この国の情勢の中でどんな試練が待ち受けているのか、全く予想もつかないままです。
待機所でしばらく過ごした後、上官が再び現れました。彼は厳しい表情を崩さず、くりもととドリルに近づいてきました。
上官:「手続きは完了しました。これから入国審査を行います。こちらへどうぞ。」
くりもととドリルは上官に従い、入国審査のブースへ向かいました。そこで、彼女たちは詳細な質問を受け、持ち物検査も行われました。
審査官:「あなたたちの目的は何ですか?」
くりもと:「私たちはイリュム諸国へ向かうために、この国を通り抜けるだけです。」
審査官:「滞在期間は?」
ドリル:「可能な限り短く。できれば一日以内に通過したいです。」
審査官はメモを取りながら、さらに詳細な質問を続けました。その後、審査が終了し、注意事項が伝えられました。
審査官:「この国を通過する際、以下の注意事項を守ってください。まず、魔法の使用は禁止です。次に、地上と地下の対立地域には近づかないように。最後に、安全のためにこのフィルムバッジを身に着けてください。これは放射線を検知するもので、異常があればすぐに知らせるようにします。」
そう言って、審査官はフィルムバッジを二つ手渡しました。くりもととドリルはそれを受け取り、感謝の意を表しました。
くりもと:「ありがとうございます。これで安全に通行できるようにします。」
上官:「気をつけて進んでください。無事に目的地にたどり着けることを願っています。」
くりもととドリルはフィルムバッジを身につけ、再び車に戻りました。エンジンをかけて、エデン共和国の内陸部へと進んでいきます。
ドリル:「フィルムバッジか…まるでSFのようね。」
くりもと:「本当に。でも、安全のためには仕方ないね。気を引き締めて進もう。」
車は再びガタガタと音を立てながら進み始めました。彼女たちはフィルムバッジをしっかりと見守りながら、注意深くエデン共和国の道を進んでいきます。
道中、時折軍の検問所や兵士のパトロールに遭遇することがありましたが、フィルムバッジと通行許可証を見せることで、無事に通過することができました。空は曇りがちで、時折雨がぱらつくこともありましたが、彼女たちは目的地に向かってひたすら進んでいきました。
やがて、遠くにイリュム諸国の国境が見えてきました。彼女たちの旅はまだ続きますが、この一歩を乗り越えたことで、新たな希望が見えてきたように感じました。
くりもと:「もう少しだね、ドリル。あと少し頑張ろう。」
ドリル:「ええ、もうすぐよ。無事に目的地にたどり着けるように、最後まで気を抜かないで。」
車は力強く進み続け、ついにイリュム諸国の国境に到達しました。新たな冒険が彼女たちを待っていますが、今はただ、その達成感を胸に抱きながら、次の一歩を踏み出す準備をしています。